先日の父の日、皆さんはどんな時間を過ごされましたか?
「いつもありがとう」
たった一言なのに、普段はなんだか照れくさくて、つい心の中にしまい込んでしまう。そんな言葉を素直に伝えられる特別な日は、贈る側にとっても、受け取る側にとっても、心がふわりと温かくなる素敵な贈り物ですよね。
言う方も、言われる方も、なんだかちょっとだけ優しい気持ちになれる。「ありがとう」は、きっと魔法の言葉なのだと思います。
日本には「母の日」や「父の日」のほかにも、「敬老の日」や「勤労感謝の日」など、感謝を伝える日が暦の中に優しく息づいています。
ふと、世界に目を向けてみると、そこにもたくさんの「ありがとう」の形がありました。まるであちこちの国を旅するように、素敵な記念日を少しだけ覗いてみませんか?
お隣の韓国では、母の日と父の日を分けずに、5月8日を「両親の日」として、パパとママへ一緒に感謝を伝えるのだとか。カーネーションを贈る習慣は私たちと同じですが、家族旅行をプレゼントすることもあるそうで、家族の絆を大切にする温かい文化が伝わってきます。
少し視野を広げて、中国の「敬老の日」は、旧暦の9月9日「重陽の節句」。長寿のシンボルである菊の花を飾ったり、菊のお酒を飲んだりして、おじいちゃん、おばあちゃんの健康を願うのだそうです。伝統を重んじる心が美しいですよね。
アメリカやカナダには、9月の日曜日に「祖父母の日」という記念日も。パパやママだけでなく、おじいちゃん、おばあちゃんが主役の日があるなんて、とても素敵だと思いませんか?
文化や日付は違えど、大切な人を想い、感謝を伝える気持ちは世界共通。なんだか、心がほっこりしますね。
日本だけに息づく、奥ゆかしい感謝の習慣
さて、世界には様々な「ありがとう」の日がありましたが、そんな中でも、ひときわ日本らしい奥ゆかしさを持つ、特別な感謝の習慣があります。
それが、夏の訪れと共にやってくる「お中元」です。
「母の日」や「父の日」のように、特定の誰かに「ありがとう」を伝えるのとは、少しだけ趣が違う、この日本ならではの美しい習慣。その歴史を紐解いてみると、まるで壮大な物語のような、深くて温かいルーツが見えてきました。
お中元の「中元」という言葉、その源流はなんと、古代中国の神様のお話にまで遡ります。
中国には古くから「道教」という教えがあり、そこでは神様が生まれたとされる三つの特別な日がありました。1月15日の「上元」、10月15日の「下元」、そして、7月15日の「中元」です。
この「中元」の日は、神様が人々の罪を赦してくださる、とても神聖な一日でした。人々は自分の過ちを清めてもらうため、神様へ敬意を込めてお供え物をしたのだそうです。
この風習が日本に伝わったとき、一つの大切な文化と運命的な出会いを果たします。それが、私たちの心にも深く根付いている、夏の仏教行事「お盆」です。
お盆は、ご先祖様の霊が私たちの元へ帰ってくるとされる時期。親族が集まり、「お帰りなさい」の気持ちと供養の心を込めて、仏壇やご先祖様にお供え物をする、とても大切な期間ですよね。
罪を清めるためのお供え物であった中国の「中元」と、ご先祖様への感謝を形にする日本のお盆。この二つの心が優しく溶け合い、日本独自の「お中元」の原型が、ゆっくりと形作られていったのです。
そして時代は流れ、江戸時代。活気あふれる商人たちの間で、新しい習慣が生まれます。
「今年も上半期、大変お世話になりました。下半期も、どうぞ末永くよろしくお願いいたします」
そんな気持ちを込めて、取引先へ品物を贈るようになりました。この心遣いが、やがて武家社会や庶民の間にも広まっていき、親戚や上司、日頃お世話になっている方々へ感謝を伝える「夏の贈り物」として、今の私たちの知る「お中元」のスタイルが定着していきました。
神様への敬意から始まり、ご先祖様への供養の心と結びつき、そして、人と人との繋がりを大切にする贈り物へと姿を変えてきたお中元。その歴史を知ると、デパートに並ぶ色とりどりのギフトボックスが、なんだかとても愛おしく見えてきませんか?
「儀礼」から、「心ときめく夏のギフト」へ
とはいえ、最近では「お中元って、なんだか堅苦しくて…」と感じている人も、少なくないかもしれません。
会社での儀礼的なやり取りが減ったり、何を選んだら良いのか分からなかったり。「お世話になった方へ」と言われても、誰にどこまで贈ればいいのか悩んでしまう、なんて声も聞こえてきそうです。
確かに、昔ながらの「しきたり」や「儀礼」として捉えると、少しだけハードルが高いと感じるのも自然なことかもしれません。
でも、もし。
その「お中元」という言葉がまとっている、少しだけ固い鎧を、そっと脱がせてみたらどうでしょう。
「お中元」を、「大切な人に贈る、心ときめく夏のサプライズギフト」と考えてみる。
そう思うだけで、なんだか急に、わくわくしてきませんか?
例えば、いつも親身に相談に乗ってくれる親友に、「この前のありがとう!」の気持ちを込めて、ひんやり冷たいフルーツゼリーを。
遠く離れて暮らす家族に、「元気でいてね」のメッセージと一緒に、ちょっと贅沢なご当地グルメや、つるりと喉ごしの良いお素麺を。
あるいは、毎日頑張っている自分自身への「ご褒美お取り寄せ」だって、立派な「夏のギフト」です。きらきら輝く老舗の和菓子や、気になっていたパティスリーの焼き菓子セットは、きっと疲れた心にご褒美をくれるはず。
大切なのは、形式ではなく、あなたの「ありがとう」の気持ちそのもの。
誰かを想ってギフトを選ぶ時間は、贈る側の心まで豊かにしてくれます。
今年の夏は、あなただけの「ありがとう」を、自由なカタチで届けてみませんか?
「お父さん、このビール好きだったよね」
「お母さん、このお菓子、きっと喜ぶな」
「あの子が笑顔になる顔が、目に浮かぶな」
そんな風に、大切な人の顔を思い浮かべながら選んだ贈り物は、きっと夏のきらめきと一緒に、相手の心を明るく照らしてくれるはずです。
「お中元」という美しい言葉に込められた、人と人との繋がりを大切にしてきた日本の心。その温かいバトンを受け取りながら、私たちはもっと自由に、もっと軽やかに、感謝の気持ちを伝え合っていいのかもしれませんね。
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